先日、こんなことがありました。
我が家コンセプトハウスに来られたお客様が、玄関に入るなりいきなり立ち止まってしまい、「なんか空気が違う。空気がキレイで気持ちがいいよねぇ。何でですかねぇ?」と問いかけられました。
私は言葉を用意してなかったのですが、その問い掛けをいいきっかけに、日頃職人と家を生み出す現場にいる立場として感じたことを踏まえ、私なりの考えを述べさせて頂きました。
以下は、その時お答えしたことに続き私の考えをまとめたものです。
家に訪れた人が、何となく優しい空気を感じるのは、現場での手仕事の痕跡がモノに残っているからではないでしょうか?。。大工さんが、左官屋さんが、それぞれ思いを込めて作ったモノたち、、、。
そのようなモノに囲まれた空間からは人は安らぎと活力を感じることが出来ます。
人の手がかかったモノは誰でも大切に思うものです。
思い出の刻まれたモノは古くなっても永く手元に置いておきたい。まるで自分の一部のように、、、。
しかし、誰が作ったかも分からない無機質な工業製品では、古くなれば思い入れもなく飽きられて、やがて捨てられてしまいます。
作っては壊す【スクラップ&ビルド】の発想から資産価値の高い家を建て長く使う【ストック】の発想へ国を上げて日本の家づくりも変わろうとしています。
しかし、いくら物理的に丈夫で機能的な家でも、肝心の人が長く大切に使いたいと心に響く空間作りをしなければ、真に資産価値の高い家とは言えないのではないでしょうか。
デザインがいいこと、自然素材であること、手作りであること。。
そういう建物が、人々によって長く愛され残されているヨーロッパや日本の古い街並みを見ればそのことがよく分かります。国、文化を問わず、人の思いが刻まれた建物こそが長く住み継がれていくのです。
国は「長期優良住宅」などの制度を通じ、耐用年数の長い住宅を普及させようとしています。長持ちする住宅が増えるのは良いことだと思いますが、だからそれだけでいい家だとは私は思えません。ただ単に’物理的な耐用年数’が長いだけで、誰にも愛されない家になってしまった場合は、残念ながら既に’社会的耐用年数’が終わっていると言えるからです。
長期優良住宅の設計条件に「メンテナンスのし易さ」という項目があります。後々出来る限りメンテナンスをし易いように作っておくのは経済的な面からも大切です。しかし、年月が経ち、いざ「メンテナンスに値する建物かどうか?」と思った時にはそこに住んで来た人の建物に対する愛着度によりずいぶん差が出るのではないか?と思います。
建てたまま何も手入れの要らない家などありません。結局は人が適切に面倒を見ない限り、長く使える家にはなりません。
住宅に携わる身として、私たちが社会に送り出す家が、皆さんに長く使うに値する、愛される家になるよう、作る時は「思い」を込めてひとつひとつを形に残したいと思います。そうやって作った’手の痕跡を感じる家’ ならば、きっと皆さんに長く愛して頂けると信じております。